研究概要 |
海洋の溶存有機庚素(DOC)は,大気中の二酸化炭素に匹敵する量の炭素量を有する,地球上で屈指の巨大炭素プールの一つである.従って,その動態を把握することは,海洋のみならず全球規模で炭素循環を理解する上で重要である.しかし,海洋深層におけるDOCの動態については,分析精度の限界もあり不明な点が多い.1000m以深の海洋深層を占める海水の体積は,全海洋では海水の総体積の75%に相当するため,深層においてDOCの差が検出されれば海洋の炭素貯蔵力の再評価につながる可能性もある.そこで,本研究では東部北大西洋の深層水サンプル計205本のDOC濃度を測定し,DOCの動態を解析した.その結果1000mから4000mの深度区間で平均4μMCの減少が検出された.これまでの研究例では,1000m以深ではDOC濃度に明らかな鉛直的な違いが見られなかったと報告しているものが圧倒的に多いため,今回得られた結果は新たな知見である.また,深度3000 mで場所によるDOC濃度の違いを比較したところ,西経18度と20度沿いでは北緯44度から42.5度にかけて3μM CのDOCへの減少が見られ,同区間で有意な酸素の消費が起こっていることも確認された.これは,海水が3000 mの水深面を北から南に流れる間に,酸素の消費を伴うDOCの分解が起こっていること示唆している.これらの結果から,この海域では,酸素の消費に占めるDOC分解の寄与が,中層(100m〜600m)に比べて深層(3000m〜5400m)で約2倍高いことが示唆され,深層のDOCはこれまで考えられていたよりもダイナミックに変動している可能性がある.
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