今年度は、これまで環境中の実態が明らかとなっていなかった塩素化多環芳香族炭化水素類(Cl-PAHs)の環境動態を明らかにするため、その分析手法の確立を進めてきた。まず、標準試料となるCl-PAHsの合成を行った。その合成方法は、予想されるCl-PAHsの生成機構を模して、N-クロロコハク酸イミドを用いた多環芳香族炭化水素類(PAHs)の直接塩素化法を採用した。ターゲットとなるPAHsは3から5環系PAHsから、環境濃度、毒性などを考慮し、ベンゾ(a)ピレンなどを含めた5種類のPAHsを選択した。これらのPAHsに上記の塩素化法をそれぞれ実施したところ、合計12種類のCl-PAHsを精製・単離することができた。これらのCl-PAHsの構造に関しては、現在解析を行っているところである。一方、大気中におけるCl-PAHsの汚染実態の調査を行うにあたり、最適な分析法を検討した。大気試料はハイボリュームエアーサンプラーで捕集した大気浮遊粉塵試料からジクロロメタンによる超音波抽出法にて調製したものを粗抽出液とした。さらに、シリカゲル-Sepakでクリーンアップを行なった後に最終試料とした。分離分析はGC-MS(SIMモード)を採用した。これら一連の分析手法を用いることで、測定に十分満足し得る精度を得ることができた。現在、実際の大気浮遊粉塵試料を分析する段階に入っており、今後、大気環境中のCl-PAHsの経年変化を調べるため、本学に保存してある過去8年分の大気浮遊粉塵試料を分析する予定である。さらに、自動車排ガス物質、焼却施設における焼却灰などの試料も分析を行い、大気環境中のCl-PAHsの発生源に関しても検討する予定である。
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