研究概要 |
本研究では塩素化多環芳香族炭化水素類(Cl-PAHs)の生態影響評価として、Cl-PAHsにおける内分泌かく乱作用ならびに変異原性について検討した。測定には3〜5環系からなる19種類のCl-PAHを用いた。内分泌かく乱作用の評価システムとしては、ヒト由来のダイオキシンレセプター(AhR)遺伝子を組み込んだ酵母を用いて、試験物質の受容体結合能ならびにDNA転写活性化能をレポーター遺伝子であるβ-ガラクトシダーゼ活性により測定する方法を用いた。また、酵母two-hybrid法によるエストロゲン(ER)活性についても評価した。変異原性試験は、SOS反応を利用したumu-testにより評価した。 はじめに、これらの評価を行うにあたり、簡便かつ小規模で評価できる分析操作について検討した。その結果、マイクロプレートリーダーを用いてマイクロプレート上で簡便かつ定量的に測定できる方法を確立した。 AhR結合能試験においては、いずれのCl-PAHにおいてもβ-ガラクトシダーゼ活性を検出することができ、その値は濃度依存的に増加することがわかった。とくに、3,8-ジクロロフルオランテンや6-クロロクリセンではBaP以上の活性を有していた。よって、Cl-PAHは生体内に取り込まれた際、内分泌攪乱作用を引き起こす可能性を初めて明らかにすることができた。一方、ER活性においては、いずれのCl-PAHにおいても結合能を示さなかったことから、Cl-PAHsはダイオキシン類と類似した生体反応を示すことが推測された。また、Cl-PAHsは、S9存在下で変異原性を示したが、S9非存在下では変異原性を示さなかった。このことから、Cl-PAHsは直接変異原性を有しておらず、代謝されることによって変異原性が誘発することが示唆された。
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