天然水中の溶存アルミニウムはアルミニウムイオンのほか各種の無機錯体・有機錯体として存在するが、その毒性は濃度だけでなく存在形態にも強く依存する。本研究では、琵琶湖に溶存するAlが最も毒性の強い無機の加水分解種であったという観測事実と、森林土壌には高濃度のAlが有機錯体となって毒性が弱められているという事実をもとに、「森林土壌に含まれるAlの有機錯体が、河川を通じて湖に至るまでに、どこでどれだけ減少するか」を把握することを目的とする。 霞ヶ浦と流入河川上流域の森林(筑波山)において、地質の異なる2つの小流域(斑糲岩地質の羽鳥地域と花崗岩地質の田地域)を選び、林内雨・土壌溶液・渓流水を採取した。雨水は、スギ樹冠下に設置したバルク降下物採取器に集めた。土壌溶液は、深さ10cm、20cm、50cm、100cmに埋設したポーラスカップで吸引した。渓流水はポリ瓶に直接採取した。試料採取は2003年11月から2004年11月までの期間、毎月行った。試料は冷暗所に保管して実験室に持ち帰った後、孔径0.4μmのフィルターで濾過した。濾過水中の溶存Alは、加水分解種(Labile Al)、有機・無機錯体(Non-labile Al)、コロイド態(Colloidal Al)に分画するために、ルモガリオン法でLabile Al+Non-labile Alを、HPLC法でNon-labile Alを、ICPMS法で全溶存Al(Labile Al+Non-labie Al+Colloidal Al)を定量した。 1年をとおして、渓流水の全溶存Alは田地域が羽鳥地域の2倍以上であり、渓流水の有機・無機錯体Alは田地域では約20%を占めるのに対して羽鳥地域では検出されなかった。林内雨と表層(10cmおよび20cm)土壌溶液における溶存Alの濃度と形態は、2つの地域で同レベルであった。一方、下層(50cmおよび100cm)土壌溶液において、田地域の方が全溶存Al濃度が高く、有機・無機錯体Alが多いことがわかった。
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