自然界には極めて過酷な環境下でも生存可能な生物種が存在する。これら生物種の環境適応機構、生体防御機構は基礎科学分野のみならず応用科学分野の視点からも大変興味深いものである。ところで、ある細菌群は極めて高い放射線耐性能を有していることが知られている。これら放射線耐性細菌の放射線に対する耐性機構の研究は、生物の外部ストレスに対する防御機構解明に対して多くの情報を提供するものと予想される。さて、ここで生体の放射線に対する影響を研究する上で、生体内の放射線ラジカル反応の解明は必須であると考えられる。そこで、まず放射線による生体関連分子に対するラジカル反応過程の解析を行うこととした。今回はβ-アラニン、イソセリン、エタノールアミンの1mM水溶液を調整し、その調整溶液に対し0-50kGyの線量で^<60>Coγ線照射を行った。この照射溶液に対し誘導体合成およびHPLCの保持時間によるアミノ酸分析を行ったところ、β-アラニン、イソセリン、エタノールアミンの各溶液において、それそれ8.4x10^<-11>mol/J、1.4x10^<-8>mol/J、3.8x10^<-10>mol/Jの効率で生体構成アミノ酸であるグリシンが生成していることが明らかとなった。これらの生成効率より、各物質からグリシンが生成される反応は、過去に報告された水溶液内放電反応およびプラズマ反応と同様のラジカル反応過程によるものであることが示唆された。今回明らかとなった放射線による水溶液内での生体構成アミノ酸生成反応は、放射線の生体に与える影響を考察する上で有意義であるばかりでなく、生命の誕生に関わる化学進化の過程を考察する上でも大変重要であると考えられる。
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