常に多くの外部ストレスに曝されている生物は、その恒常性を維持するために種々の生体防御機構を有している。それらのうちラジカル除去物質を介した機構は、放射線をはじめ様々なストレスに対する効果的な生体防御機構であることが知られている。代表的な生体内ラジカル除去物質として、アスコルビン酸、α-トコフェロール、カロテノイド、グルタチオン等が挙げられる。一方、生体内にはメタロチオネイン(MT)というタンパク質が存在するが、そのラジカル除去活性は代表的なラジカル除去剤であるグルタチオンの数十倍になると報告されている。そこで、生体内におけるメタロチオネイン(MT-IおよびMT-II)の動態とその生体防御活性について解析を行った。まず、マウス水晶体上皮由来培養細胞(alphaTN4-1)におけるMT-IおよびMT-IIの存在をRT-PCRにより確認した。そして、ZnCI_2溶液添加によるMT-IおよびMT-IIの動態を定量的real-time RT PCRにより解析した。さらに、誘導されたMT-IおよびMT-IIによる重金属および紫外線ストレスに対する生体防御効果を、細胞内への^3H-チミジン取り込み量を指標として解析した。その結果、alphaTN4-1は恒常的にMT-IおよびMT-II mRNAを発現していることが確認された。そして、MT-IおよびMT-II mRNAはZnCl_2の添加に対して濃度依存的に誘導されることが明らかとなった。その誘導量は100μM、8時間処理細胞においては、未処理細胞と比較してMT-Iで5.9倍、MT-IIで16.2倍であった。さらに、MT-IおよびMT-IIの誘導は重金属および紫外線ストレス対し防御的に機能することが明らかとなった。ZnCl_2の100μM、8時間処理によるMT誘導細胞における細胞分裂活性は、非誘導細胞と比較して、500μM ZnCl_2処理ストレスに対して2.0倍、70μM CdCl_2処理ストレスに対して2.4倍、27J/cm2 UV-A照射ストレスに対して1.3倍であった。これらのことより、生体内水晶体においても、様々な重金属および紫外線ストレスに対するMTによる生体防御機構が存在することが示唆された。
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