海鳥類を含めた海棲高等動物における、ヒ素の化学形態分析法を確立した。陽イオン交換カラムあるいは陰イオン交換カラムによりヒ素化合物を分離した後、誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)によりヒ素を定量した(HPLC/ICP-MS法)。標準試料DORM2(National Research Council Canada)を用い、分析法の精度および確度を検討したところ、良好な結果が得られた。そこで本方法を海棲高等動物の肝臓試料に適用し、ヒ素の化学形態分析を行った。大部分の海棲高等動物の肝臓で、ヒ素は主にアルセノベタインとして蓄積していた。さらに、ジメチルアルシン酸、メチルアルソン酸、アルセノコリンといったヒ素化合物も微量ではあるが検出された。総ヒ素化合物に占めるアルセノベタインの割合は、総ヒ素濃度の増加に伴い上昇した。しかしながら、ジュゴンではアルセノベタインは検出されず、メチルアルソン酸が主要なヒ素化合物であった。また同じ海鳥類でも、ウミネコの肝臓ではヒ素は低濃度であったが、クロアシアホウドリは高値を示し、用いた海棲高等動物の中で最も高濃度であった。これらの結果は、種によりヒ素の代謝様式が異なる可能性を示唆している。 ウミネコでヒ素の組織分布を調べたところ、肝臓、腎臓で高値を示した。またいずれの組織でもアルセノベタインが主要なヒ素化合物であった。母鳥の13組織および卵3つを分析に供し、母鳥から卵へのヒ素の移行を調査したところ、卵へは主にアルセノベタインが移行しており、ヒ素化合物の移行率は約10%であった。卵の重量割合は約30%であることから、ヒ素の母卵間移行を制御する機構の存在が推察された。また、クロアシアホウドリのヒ素高蓄積機構を解明するため、現在、クロアシアホウドリにおけるヒ素化合物の組織分布、細胞内分布等を調査している。
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