アトピー性皮膚炎(AD)は、近年、患者数の増加と重症化が社会問題となっているが、環境の悪化が原因の一つと考えられている。そこで本研究では、ディーゼル排気粒子(DEP)がADの病態を増悪するか否かをAD発症モデル、NC/Nga系マウスを用い、調べることを目的とした。 H14年度は、大気中のDEPを吸入した状況を想定し、DEPを100μg、2週間ごとにNC/Nga系マウスに6回点鼻した。点鼻開始38日目から、塩化ピクリルを週に1回、5週間塗布することによりADを誘発させた。また、ADの原因のひとつと考えられているダニ抗原をNC/Nga系マウスに投与し、DEPのアジュバント作用についても調べた。抗原を100μg、初回感作後、DEPとともに10μgのダニ抗原を6回点鼻した。 その結果、NC/Nga系では、DEPの点鼻によりAD症状がやや悪化した。皮下組織への好酸球、肥満細胞の遊走には、ほとんど影響を及ぼさなかった。総IgE量、血清中IL-4量においてもDEPの増強作用が見られなかったが、血清中IFN-γ量が、対照に比べ有意に低下していた。IFN-γは、拮抗的にI型アレルギーを抑制することが知られており、IFN-γ量の低下がI型アレルギーであるADの病態を増悪した可能性が示唆された。今回の実験系では、ダニ抗原は塩化ピクリルで誘発されたADの病態に影響を与えなかった。一方ADの対照として同様の処置を行ったBALB/c系マウスでは、炎症細胞の誘導、抗体産生や血中サイトカイン量がNC/Nga系とほぼ同程度であったが、皮膚の炎症はほとんど見られなかった。NC/Nga系には、BALB/c系とは異なる好酸球や肥満細胞の脱顆粒の機序があることが考えられる。 H15年度は、NC/Nga系マウスにDEPを皮膚に塗布し、DEPの経皮的影響について調べる。
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