廃棄物処理という大きな社会問題を抱えている我が日本では、2000年にダイオキシン類対策特別措置法により焼却施設からの排出量が規制を受けることとなった。焼却施設が規制を受ける一方、廃棄物は増加するという非常に困難な問題が発生している。これに伴い焼却施設の高精度処理化(焼却炉の大型化、焼却温度の高温化、焼却の連続化等)が進み、ダイオキシン類の排出量が削減できた反面、本研究で問題にあげた多環芳香族炭化水素(PAH)とそれら誘導体の発生量の増加が懸念された。発生量の調査を行ったところ、ダイオキシン類の生成量と比較して、PAHの発生量はその数千倍にもおよぶこと、また、変異原性や細胞毒性等のデータを根拠に毒性等量に換算するとダイオキシン類に匹敵する濃度で我々の周辺環境を汚染していることを明らかにした。さらに、これらPAHと同様に強変異原性を示す。ニトロ化PAH(NO_2-PAH)の生成実態について、ダイオキシン類の生成量とは対照的であり、PAH濃度と非常に相関性のあることを解明した。 ダイオキシン類と構造あるいは安定性等の物理化学的性質が非常に近似する塩素化PAH(Cl-PAH)についても、同定を行った。その結果、ダイオキシン類濃度が高濃度である焼却施設からピコ〜ナノレベルで検出された。このCl-PAHはPAHやNO_2-PAHと同様、変異原性をはじめとする非常に強力な毒性を有することが知られている。したがって、本研究成果はこれらハロゲン化PAHによる焼却施設からの排出あるいはその周辺環境への汚染を実証する基礎的資料であると考えられた。今後、その実態を究明することが非常に重要な位置づけにあると判断した。
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