近年、我が国の廃棄物対策は生産物の生産から流通、消費を経て廃棄あるいは再資源化に至るライフサイクル全体を制御する資源循環型社会の構築へ転換してきている。しかし、リサイクル社会が進展してきたとはいえ、依然、我が国における廃棄物の排出量は増加し続けており、その大半が焼却処分されているのが現状である。2000年1月から「ダイオキシン類対策特別措置法」が施行され、社会問題となったダイオキシン類は収束の方向へと向かっているが、廃棄物処理の大半が焼却されている現状を考慮した場合、無数の有害化学物質の生成が推定され、さらに廃棄物の組成や燃焼条件によってダイオキシン類と同レベルあるいはそれ以上の毒性を持つ芳香族炭化水素(PAHs)およびその誘導体の生成が十分に予想された。そこで研究代表者はこれら新規有害化学物質の汚染実態を解明し、また、毒性試験等を駆使することにより、複合的な環境負荷ならびに人体汚染に伴う健康影響評価を行うことを目的とした。 これまでの研究成果よりPAHsおよびその構造中にニトロ基を1つ有する化合物の分析法を開発し、その汚染実態を実証してきた。また、平成14年度は焼却施設からの排ガス中においてPAHsに塩素が置換したハロゲン化PAHsの同定に成功し、焼却施設からの排出状況および周辺環境への汚染を実証する基礎的資料を報告した。 本年度は、(1)極めて高度な分析技術を必要とするニトロ基を2つ有するPAHsの分析法の開発および(2)ダイオキシン類の酸素原子が硫黄原子に置換したポリ塩素化ダイベンゾチオフェンに関する研究の2つの研究において成果が得られた。(1)では誘導体化を利用したGC-MS法によりこれまで未知の領域であったサブフェムトオーダーでの定量を可能とした。(2)では廃棄物焼却施設から極めて強毒性である塩素化ダイベンゾチオフェンが検出され、我が国で初めて存在が確認される結果となった。
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