今回は第一に、線虫Caenorhabditis elegans(以下C.elegans)における寿命突然変異体を用いて、酸化ストレスに対する適応応答反応としての寿命延長効果に差異がみられるかどうか検討した。その結果、age-1のような長寿命変異体では適応応答反応がみられたが、mev-1やdaf-16のような短寿命変異体では寿命の延長は観察されず、却って短縮する傾向もみられた。この違いは、変異体間で酸化ストレスに対する耐性が異なることに起因すると考えられた。そこで、それぞれの変異体における酸素およびパラコート耐性を測定してみたところ、野生株と比較してage-1は耐性が強まり、mev-1やdaf-16では感受性が増加していた。また、各変異体における酸化ストレスの程度を調べるために、体内のカルボニル化蛋白の蓄積量を測定した。この結果、age-1はカルボニル化蛋白の蓄積量が少なく、mev-1やdaf-16ではかなり蓄積していることが判明した。以上のことは、C.elegansにおける寿命突然変異体では、長寿の表現型をもつものは元来抗酸化系の働きが高いために酸化ストレスに対する適応応答反応も強化されており、mev-1やdaf-16のような短寿命の表現型をもつものはその逆であることを示唆している。 そこで第二に、寿命変異体の抗酸化系の違いを明白にさせるために、代表的な抗酸化系酵素であるスーパーオキサイド・ディスムターゼ(SOD)とカタラーゼについて、その発現量と活性を測定した。その結果、age-1とdaf-16変異体間では有意な差が認められた。すなわち、age-1ではSODとカタラーゼの活性が増加しているが、これに比較してdaf-16では両方の酵素活性が低下していた。age-1とdaf-16遺伝子のコードする蛋白質は、C.elegansにおいて老化や寿命のシグナルを制御しているインシュリン様シグナル伝達経路を構成している。このうち、Daf-16蛋白はフォークヘッド型転写因子で、インシュリン様シグナル伝達経路の下流で作用することが知られている。したがって、Daf-16転写因子の標的遺伝子の候補として抗酸化系の存在が推測される。
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