研究概要 |
この研究課題における最終年度である今回は、線虫Caenorhabditis elegans(以下C.elegans)における高濃度酸素暴露による適応応答反応としての寿命延長効果を示さないdaf-16変異体を用いて、その発現遺伝子の変化を野生株や長寿の表現型を示すage-1変異体と比較するためにマイクロアレイを行い、そのデータの解析と遺伝子ごとの生体における実際の発現量の違いを確認した。すなわち、短寿命であり酸素ストレスによる適応応答反応を示さないdaf-16変異体における数種のアリールを用いてage-1変異体における発現遺伝子のプロファイルと比較した結果、ESTクローンであるyk552c12やnpa-1,spp-14などの遺伝子の発現量に差が見られることが判った。そこでこれらの遺伝子が寿命延長に関与する生体内でのインシュリン様信号伝達経路の下流で作用している可能性を確認するために、この経路の上流で作用するインシュリン様受容体DAF-2をコードする遺伝子に異常をもつdaf-2変異体を用いてRT-PCRによる発現量の比較を行った。その結果、これらの遺伝子のうちyk552c12クローンとnpa-1遺伝子の発現量がdaf-16変異体において有意に減少していることが確認できた。このyk552c12とnpa-1遺伝子はともにその転写領域の上流にDAF-16結合配列(DBE)をもつため、転写因子DAF-16の標的遺伝子である可能性が高いと考えられた。そこで、daf-16変異体において発現量が低下しているこれらの遺伝子を外来遺伝子導入法により回復させることにより、適応応答反応の部分的な機能回復が見られた。これら遺伝子の詳細をみると、yk552c12はヒスチジン酸性ホスファターゼをコードし、npa-1はアレルゲン関与の線虫ポリプロテインをコードしていた。したがって、細胞内信号伝達系や抗酸化ストレスに関係している可能性があり、これらの遺伝子の正常な機能によって適応応答反応の働きが維持されている可能性が示唆される。
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