本研究では、ほ乳類細胞内のKu蛋白質複合体が、放射線照射後のDNA切断点に結合するか否かを明らかにすることを目的に研究を進めている。これまでに、下記の様にほぼ計画に従って解析は進行した。 1)GFP融合Ku80蛋白質発現ベクターの作成 計画に従って、野生型、あるいは、変異型Ku80蛋白質をGFP融合蛋白質として発現する様に遺伝子発現ベクターを構築した。 2)Ku80欠損細胞への遺伝子発現ベクターの導入と細胞株の樹立 発現ベクターは、Ku80欠損細胞の中に導入した。そして、一晩培養後、抗生物質による選別培地に交換し、恒常的に融合蛋白質を発現する細胞株を複数樹立した。細胞株選択の指標は、(1)蛍光蛋白質の蛍光強度が明るく、細胞核への局在をとる、(2)正常な細胞形態をとる、(3)期待されるGFP融合Ku80を発現している、こととした。 3)樹立したGFP融合Ku80発現細胞株のDNA修復能 GFP融合蛋白質は、GFP自体が大きな蛋白質であるので、機能や局在変化に影響を与える可能性がある。予備実験の結果から、Ku80のDNA修復能には影響を与えないことが確認されているが、念のため、(1)樹立した細胞株のDNA修復能に関しては、電離放射線照射後の細胞増殖数と増殖能(コロニー形成法)により解析した。また、野生型Ku80のDNA修復能には、Ku70と複合体を形成し、Ku70を安定化させて、核に局在化させることが必須である。そこで、(2)Ku70の安定化をKu70の蛋白質量を調べる(ウエスタン法)ことで、(3)Ku70とKu80の結合の有無を免疫沈降法で、(4)Ku70の細胞内局在を免疫細胞化学法で確認した。予想どうり変異型Ku80を導入させた細胞株では、変異型Ku80の局在は野生型Ku80と同様であるにもかかわらず、Ku70の安定化や変異型Ku80とKu70の結合は無かった。
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