近年になって、エストラジオール(E2)よる魚メス化問題が深刻化しつつある。E2はヒトおよび家畜のし尿から排出されており、全国規模の環境調査でも多くの水環境から検出されており、E2の環境動態、生体影響、除去システムに関する研究の必要性が認識されつつある。そこで本研究では、E2分解菌の探索と性状解析を行った。下水処理場から得た汚泥をE2を唯一の炭素源とする無機塩類培養液に加えて集積培養を行った後、同じ組成の寒天培地に接種し、静置培養した。1週間後、寒天培地上に出現したコロニーを爪楊枝でビッグアップし、新しい寒天培地に接種、純化を行った。その結果、E2を唯一の炭素源として生育できる細菌ARI-1株を得た。 ARI-1株のE2分解能をフラスコ実験で検討した。E2を含む舞機塩類最少培地に菌を接種し、HPLCで経時的に残留E2量を追跡した。その結果、分解菌は環境濃度の1000万倍に相当する高濃度E2を50日間で150万倍のE2を20日間でほぼ完全に分解できた。また、E2以外で環境汚染問題が懸念されつつある、モストロン、エストリーオールに対しても同様に分解できることがわかった。さらに、GCMSとNMR による分析から、分解されたこれらエストロゲンは炭酸ガスあるいは低分子量有機酸のレベルにまで変換されていることも示唆され、環境浄化への応用に期待が持てることもわかった。 分解菌がどのような種類の菌なのかについて、生理学的手法に加え、生化学的および遺伝子工学的手法も用いて系統解析を行った。その結果、分解菌はNovosphingobium属の新種であることが判明し、Novosphingobium tardaugenesと命名した。
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