前年度に引き続き、植物プランクトンが産出する鉄結合配位子の探索を行うとともに、植物プランクトンの鉄取り込み機構を解析し、その生長に関与する因子の解明を試みた。 植物プランクトンの鉄取り込みに係わる生理活性物質の探索では、前年度に見いだした鉄結合配位子を高速液体クロマトグラフィーを用いて分離する手法を確立した。鉄制限下における培養実験より、単一の植物プランクト種から複数の鉄結合配位子が放出されるが、ほとんどの配位子は分子量1kDa以下で鉄に対して強い錯生成能力を有する親水性化合物であることが分かった。更に本研究では、遺伝子工学手法により鉄運搬体形成遺伝子の同定・分離を試みた。ディファレンシャルディスプレイ法を用いて、植物プランクトンから鉄取り込みに関与する遺伝子群のスクリーニングを行い、植物プランクトンの鉄トランスポーター遺伝子のクローン化、及び、ノーザンブロッティングによる誘導発現の確認、組み換え酵母での発現等を実施した結果、鉄の取り込みに関与する遺伝子群を複数同定することができた。これらの遺伝子群は、主に、鉄還元過程を担う機能分子の発現に関与することが分かった。 一方、有機鉄錯体を用いた植物プランクトンの生長制御に関する検討では、放射性トレーサー^<55>Feを用いて、鉄結合配位子を加えた際に植物プランクトンの細胞表面で生じる鉄量と存在状態の変化を観測することができた。植物プランクトンは、通常の条件では細胞表面にある程度の鉄を貯蔵するが、培養液中における鉄結合配位子の濃度が高くなると、細胞表面の鉄が急激に減少することが分かった。この現象は、植物プランクトンの増殖速度に直結したことから、環境水中に鉄結合配位子を散布することにより植物プランクトンの増殖を制御できる可能性を示している。
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