多環芳香族炭化水素(PAH)分解菌であるMycobacterium sp.RJGII-135株、未同定のPhD1-3y株、PhD1-3w株、B3株及びD4株について、PAHの輸送・分解の基礎知見を得るため、PAH分解試験、細胞表面疎水性並びにバイオサーファクタント生産性を検討した。懸濁体PAH(ナフタレン、フェナントレンまたはピレン)の分解性をHPLCで評価した結果、RJGII-135株は中間代謝物をほとんど蓄積せずにフェナントレンとピレンを分解したが、ナフタレンを分解しなかった。前年度の^<14>C-フェナントレンの取り込み試験により、本菌は水相フェナントレンをエネルギー依存的に膜輸送することが示唆されていたが、さらに本研究で他のPAHと^<14>C-フェナントレンの競合試験を行った結果、この輸送過程は3環以上のPAHに選択的でありナフタレンの認識は極めて低いことが明らかになった。分解試験の結果と併せ、RJGII-135株は水相に極低濃度で遊離した3環以上のPAHを取り込み分解すると推察された。B3株は3種のPAHを分解し、残りの3株はピレンを分解しなかったことから、RJGII-135株とは異なる取り込み・分解の機構を持つと考えられた。これら4株の培養液上清の表面張力を測定した結果、バイオサーファクタントの産生は認められなかった。細胞表面疎水性をBATH法により評価したところ、D4株で高い疎水性度(55%)が示されまた培養液中の浮遊菌体もほとんど観察されなかったことから、本菌は懸濁体PAHに付着することで高濃度のPAHを取り込む機構が示唆された。今後は4株についても^<14>C-フェナントレン取り込み試験を行うとともに、固相吸着したPAHの輸送・分解特性を検討する。
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