研究概要 |
本年度はまず,滋賀県内の二箇所の里山で現地調査を行った.一つは大津市仰木地区の里山である.この地域は、標高200m前後の丘陵地に棚田が広がる純農村地域であり,その棚田を取り巻く里山環境は,薪炭林や農用林として利用されることによって維持されてきた.この地域では,平成12年に「大津市農業農村整備計画」が策定され,現在その計画をもとにした里山の整備,保全が進められている.次年度は,この整備計画をもとにしたシナリオを作り,大津市仰木地区の里山保全がもたらす社会厚生をCVMを用いて評価することに取り組む. もう一つは,八日市市建部北町にある「河辺いきものの森」である.この森は愛知川の河辺に分布する平地林であり,かつては水害の防備や農用林として大きな役割を果たしていた里山である.現在は,森林ボランティア団体「遊林会」によってその維持管理が行われている. 「河辺いきものの森」の現地調査から,今後里山環境を維持していく上でボランティアの活動が極めて重要な位置を占めることが示唆された.またそこでのヒアリング調査の結果から,彼らの活動目的が,里山の保全だけにあるのではなく,ボランティア活動のレクリエーション的側面にあることが明らかとなった.そこで本年度は,ボランティアの里山保全活動を公共財供給と私的財消費の両観点からモデル化し,里山がボランティアにもたらす社会厚生を評価するための基礎理論を構築した.その結果,トラベルコスト法の下で価格として捉えられる旅行費用を,旅行費用と活動時間の機会費用との合計で置き換え,訪問回数を活動回数で置き換えることによって,実際の評価が可能になることが示された.
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