ポリエン抗生物質アムホテリシンB(AmB)は感染症治療に広く用いられており、極めて重要な抗真菌剤のひとつである。その抗真菌作用は主に細胞膜におけるイオンチャネル複合体の形成により発現するとされており、選択毒性は膜含有ステロールの分子認識の違いにより説明されている。しかし、チャンネル複合体の構造やステロール認識の機構については、未だ不明のままである。本研究では、AmBとステロールによって生体膜中で形成されるチャンネル複合体の構造を明らかにするとともに、AmB分子同士間、およびAmB-ステロール間の分子認識機構を解明することを目的とする。 まず、脂質膜中でのAmBチャンネル複合体の安定化を図るため、AmB同士、またはAmBとステロールの連結分子を調製した。すでに申請者らはAmBと同等のチャンネル活性を有するAmB二量体分子の作成に成功しているが、これまでリンカーの結合部位としてAmBのアミノ基のみを用いてきた。そこで、平成14年度はAmBのカルボキシル基同士を連結した二量体の調製を行った。その結果、この二量体も強力な生物活性を有し、かつ脂質二重膜に作用してイオン透過性を向上させることが明らかとなった。このことは、二分子を連結させることでチャンネル複合体が安定化されたことを示している。 さらに、AmBチャネル複合体はAmBのアミノ基とカルボキシル基間の分子間相互作用によって形成されていると考えられているので、この部分を連結させた二量体の調製も開始した。 また、固体NMRによる距離測定を行うためのAmB標識体の調製も行った。AmB生産菌に^<13>C標識したプロピオン酸やグルコースを取り込ませることで、位置特異的もしくはユニホームに^<13>C標識されたAmBの調製に成功した。同時に、化学的に^<19>Fを導入したAmBやステロールの調製にも成功した。現在これら標識分子を用い、チャネル複合体形成時における^<19>F-^<13>C間の距離測定を行っている。
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