1)[カルジトールの生合成の反応の解明]好熱性古細菌の主要な一群の膜脂質に特徴的な5員環の炭素環構造をもつカルジトールの生合成の解明に関し、炭素環を作る過程とエーテル結合形成を行う生体反応の2つの反応機構の追跡に関し、種々の部位特異的に標識した基質を用いて、生成物の追跡を行った。1位、6位重水素標識グルコースを合成し、取込み実験を行ったところ、それぞれの重水素標識が高い効率で炭素5員環の特定の部位に取り込まれることを発見した。本化合物はグルコースの1位と5位の間で炭素環が形成し、この菌の細胞膜脂質の極性基部分に多く見られるミオイノシトールの生合成にごく類似した過程で生成するものと思われる。また1位(重)水素が失われないことより、炭素環が形成した後に、エーテル結合が形成されることを示唆する結果を得た。現在論文投稿を準備中である。 2)[古細菌膜脂質のモデル化による"原始細胞膜"形成]古細菌膜脂質は飽和イソプレノイド体であるのに比して、イソプレノイドの生合成の前駆体はもともと二重結合を持った不飽和体である。古細菌脂質の最も単純なモデルである直鎖イソプレノイドリン酸エステル構造体について、飽和度をかえたもの(二重結合の有無を変化させたもの)を合成し、これらから形成されるリポソーム(MLV)の酸ならびに熱安定性を検討した。蛍光物質の保持率の時間経過を指標にすると、保持率が最も高いのは、pHに関しては4.5付近であった。一方、飽和度をかえたもので比較すると、フィトールに同じ構造を疎水基とする、1つ二重結合を持ったものから調製したMLVが最も保持率が高かった。通常生物の膜脂質はグリセロールジエステルであり、極性基からβ位に置換基が存在し配座を規制する因子がある。今回の結果の二重結合の位置(極性基からβ位)という点では同様の意味があるものと思われ興味深い結果である。
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