研究概要 |
ヒト黒色腫細胞、ヒト繊維肉腫細胞から単離された、ヒト由来自己分泌型がん細胞運動刺激因子(human autocrine motility factor,以下hAMFと略)は、細胞外に分泌され、産生細胞自体の運動を刺激する、ホモ2量体(2x558アミノ酸残基)サイトカインである。本研究では、がん転移抑制剤の合理的デザインへ向けた手掛りを得るため、hAMFとその阻害剤との複合体の立体構造、およびhAMFの受容体である、hAMFRの立体構造を解明することを目指している。 平成14年度までに、我々は、hAMFの阻害剤非結合型、阻害剤結合型の両者の立体構造解析に成功し、部位特異的置換実験の結果と合わせ、AMFの機能発現には、糖タンパクであるAMFRの糖鎖認識が重要であるという知見を得た。一方、各種阻害剤の効果を評価するin vivoのがん転移モデル等の実験においては、マウスを用いている。従って、マウス由来AMF (mAMF)の立体構造情報も必要である。そこで、今年度は、mAMFの発現・精製・結晶化・構造決定を行った。 大腸菌を用いてGST融合型mAMFを発現させ、2段階のカラム操作で精製した。精製mAMFを用いて結晶化条件の探索を行い、板状結晶を得ることに成功した。結晶学的パラメータは、空間群P2_1、格子定数a=69.78Å,b=116.23Å,c=73.39Å,β=100.93゜であった。共結晶化法により、各種阻害剤との複合体結晶の調製にも成功した。筑波のPhoton Factory、播磨のSPring-8のシンクロトロン放射光を用い、回折強度データの収集を行った。分子置換法による位相決定、構造精密化を行い、各種阻害剤複合体に関し、高分解能の立体構造を得ることができた。
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