私達は、先にアデノウイルスおよびSV40のT抗原によってトランスフォームされたヒト上皮系細胞293Tにおいて、Gq共役型受容体であるα1Bアドレナリン受容体が活性化されると、細胞内でc-Jun N-terminal kinase (JNK)の活性化がおこり、細胞の増殖が抑制されること、さらにそのシグナル伝達経路にSrcファミリーチロシンキナーゼとRhoファミリー低分子量GTP結合蛋白質が関与することを見出した。本研究は、この新規シグナル伝達経路の全容解明を目指すとともに、その増殖抑制機構を解明することを目的としている。平成14年度の研究から、α1Bアドレナリン受容体からJNKの活性化に至る細胞増殖抑制シグナル伝達経路上SrcファミリーチロシンキナーゼとRhoファミリー低分子量GTP結合蛋白質の接点に存在するシグナル伝達因子の同定に成功した。この接点にはRhoファミリーグアニンヌクレオチド交換因子の存在が考えられた。そこで、α1Bアドレナリン受容体によって活性化されるRhoファミリー低分子量GTP結合蛋白質に対する特異性を指標にして、遺伝子情報データベースから、in silicoでいくつかの機知及び機能未知の交換因子の候補を絞った。次に、これらの遺伝子を293T細胞に発現させ、α1Bアドレナリン受容体刺激に応答し、かつ細胞増殖抑制性JNK経路の上流に存在することを指標に検索したところ、Dbs/KIAA0362と呼ばれる交換因子がこの条件に相当する分子であることが明らかとなった。
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