研究概要 |
ATP依存性プロテアーゼの生体内での基質は2種に大別される.第一は変性等による異常蛋白質であり,この種の基質の分解は細胞内蛋白質の品質管理に貢献する.第二は,各ATP依存性プロテアーゼに特異的な生理基質であり,迅速な分解によるそれらの機能抑制は正常な細胞機能の維持に必須である.これまでの研究より,大腸菌における代表的なATP依存性プロテアーゼであるLonは,生理基質である細胞分裂阻害蛋白質SulAを分解する際に,SulAの機能上,構造上重要な部位を優先して分解することが示した.このことは,基質の正確かつ迅速な機能抑制に貢献する新規の重要な分子機構であると考えられる.本研究では,他のATP依存性プロテアーゼと基質の間にも同様の機構が存在するか否かを検討することを目的とした.第一に,Lon同様SulAを生理基質とするATP依存性プロテアーゼHslVUについて,その分解機構を検討した.その結果,HslVUは,Lon同様SulAの機能上,構造上重要な部位を優先して分解することが示された.また,LonおよびHslVUのSulAに対する1次構造上の切断特異性は互いに異なっていた.このように切断特異性も触媒分子機構も異なる両酵素に共通して,前述の基質の機能部位の優先切断が見られることは極めて興味深い.第二に,Lonによるリボソーム蛋白質S2の分解について検討した.S2は飢餓状態で蓄積されるポリリン酸の存在下Lonにより分解されることが報告されている.本研究では,S2のLonによる切断部位を決定した.その結果,Lonは,S2の2次構造に富んだ領域を優先的に切断することが示された.また,ポリリン酸はLonによるS2の分解を促進するが,基質の切断特異性には影響しないことが示された.
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