網膜の前後軸方向において、前側特異的あるいは後側特異的に発現する受容体型PTPを一つずつ見出した。受容体型PTPは、細胞外領域にリガンド分子が結合することにより活性が調節されると考えられている。PTPについては、PTP活性を担うドメイン中の特定のアミノ酸を変異させることにより、PTP活性を欠失させると同時に基質をトラップするドミナントネガティブ型分子を作製することが可能である。 網膜後側に発現するPTPについて、基質タンパク質の探索を行った。その結果、神経軸索のガイダンスに重要な役割を果たしている受容体型チロシンキナーゼのEphが、基質となっていることが明らかになった。すなわち、Ephを培養細胞に導入すると、細胞内タンパク質の著しいチロシンリン酸化の亢進が見られるが、野生型PTPと同時に導入した場合には、このようなリン酸化の亢進は抑制される。一方、変異型PTPではこのような抑制は見られなかった。また、精製したリン酸化型Ephに野生型PTPを作用させると、早い脱リン酸化反応が観察された。 次に、変異型分子をニワトリ網膜に導入し、その効果を解析した。その結果、ドミナントネガティブ体を発現させたニワトリ胚においては、網膜から視蓋への投射に異常が見られた。これらの異常は、PTPが本来脱リン酸化する基質タンパク質のリン酸化が、ドミナントネガティブ体のために亢進した状態になったため生じたと推測された。
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