ピロロキノリンキノン(PQQ)は、ニコチンアミド(NADなど)およびフラビン(FADなど)に次ぐ第三の酸化還元補酵素としてバクテリアにおいて見つかったが、その後、多くの食物にPQQが含まれていることが判明した。また、PQQを含まない餌を与えたマウスは発達不良をはじめとする多くの異常を示したことから、PQQは哺乳類にとって重要な栄養素のひとつではないかと考えられた。しかし、生体内の役割については謎に包まれていた。我々は、PQQ結合モチーフを持ったタンパク質をコードする新規遺伝子を哺乳類から見出した。マウスのこのタンパク質はリジン代謝に関わる酵素であるアミノアジピン酸マミアルデヒド(AAS)脱水素酵素であろうと推測された。昨年度までに、ノザンブロット解析などの基本的なデータを取得した。その後、マウスの摂餌状態によってこの遺伝子の発現が変化することや、PQQを含まない餌を与えたマウスにおいて末梢血液中におけるリジンの代謝産物の量に変化が起きていることを確認した。これらの結果から、PQQは新規の酸化還元補酵素であると考えられた。そして、この我々の成果と、すでに報告されていた栄養学的なデータを併せて考慮すると、PQQは哺乳類(少なくともマウス)にとって新規のビタミンであることが強く示唆された。今年度はさらに、バキュロウィルス-昆虫細胞系を用い、AAS脱水素酵素を発現させ、その機能を解析した。これまでに、ATP依存的に基質と結合することを見出した。また、この研究の過程で、AAS脱水素酵素が極めて珍しい翻訳後修飾(4'-ホスホパンテテイン化)を受けることが判明した。そこで、その翻訳後修飾を担う酵素のクローニングした。この酵素を発現・精製し、試験管内において、リコンビナントAAS脱水素酵素4'-ホスホパンテテイン化させることにも成功した。
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