含水、含塩量の多い生体試料ではラジオ波の照射による発熱を生じる。またこのような試料は局所運動性が高いため、磁化の緩和が速い。本研究では、試料発熱を生じないような弱いラジオ波を照射し、かつ観測核の感度を向上させる新規固体核磁気共鳴法の開発を行った。 ^1H同種核間磁気双極子相互作用のデカップル条件下で、観測核に任意の強度の弱いラジオ波を適用し、交差分極に基づく観測核の感度向上を可能にする新規方法(Time Averaged Nutation at Magic Angle-CPの開発を行った。^1H核に適用するラジオ波を特定の短い周期内でLee-Goldburgの条件を満たすよう、位相と周波数の双方を同時に反転させ、歳差周波数の時間平均を行った。これにより^1H同種核間磁気双極子相互作用を消去しながら、交差分極を行うためのHartmann-hahn条件を、任意に調節が可能にした。自発磁場配向試料を用いて、既存の交差分極法と比較を行い、本方法では観測核の接触時間中のラジオ波強度に依存することなく、既存の交差分極法以上の感度を1/10の出力で維持可能であることが理論的、実験的に観測された。 また上述のような性質を持つ脂質膜に結合したホルモンペプチドの膜上での立体構造の解析を行った。^<13>C-、^<31>P-NMRスペクトルの線形解析から、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)は中性脂質であるDMPC膜とは弱く結合するが、DMPG膜とは静電相互作用により強く結合することが判明した。さらに主鎖のPhe^7残基ではランダムコイル、Gly^<15>残基ではα-helix構造をとっていることが判明した。一方オピオイドペプチドβ-エンドルフィン(endorphin)は、主にβ-sheet構造をとって、DMPC膜表面と強く結合していることが判明した。
|