視細胞では、光によって活性化された光受容蛋白質は、受容体キナーゼによってリン酸化されることにより不活性化される。その速度が、錐体では桿体よりも20倍以上早いことが私の研究から明らかになっている。この早いリン酸化は、錐体の応答持続時間が桿体と比べて短かくなる一因であると考えられる。 錐体における早いリン酸化が、錐体と桿体で光受容蛋白質が異なるために生じるのか、それとも受容体キナーゼが異なるために生じるのかを検討するのが今年度の当初の計画であった。これを明らかにするため、以下に述べる実験を行った。 光受容蛋白質は、露光処理を行うことにより失活させる事が出来る。また一方で、受容体キナーゼは、細胞膜を尿素で処理することにより、失活させることが出来る。網膜から分離した錐体・桿体をそれぞれの方法で処理することにより、光受容蛋白は失活しているがキナーゼは含む試料(以下・キナーゼ膜試料)と、光受容蛋白は失活しているがキナーゼを含まない膜試料(以下、受容体膜試料)を作成した。次に、錐体・桿体由来のキナーゼ膜試料を、錐体・桿体由来のいずれかの受容体膜試料と融合させることにより、任意のキナーゼで錐体・桿体光受容蛋白をリン酸化することが出来る実験系を構築した。この系を使って検討を行ったところ、錐体型キナーゼによるリン酸化は、桿体型キナーゼのリン酸化と比べると、光受容蛋白の違いに関係なく、つねに早い事が明らかになった。このことから、視細胞のリン酸化速度を決定しているのは、キナーゼの活性であり、光受容蛋白の種類は関係が無い事が示唆された。また、錐体におけるキナーゼ活性は、桿体のキナーゼ活性と比べると約500倍も大きい事が一連の実験から明らかになった。一連の実験をさらに精密に追試し、その後、結果を学術誌に投稿する予定である。
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