本研究ではDNAのミリ秒領域の運動性を解析し、DNAのやわらかさがDNA結合蛋白質によって認識されている証拠を直接観測する事を目標としている。本年度は、咋年度に確立したDNA結合蛋白質IRF4のDNA結合ドメイン(IRF4-DBD)の大量発現系、および安定同位体標識蛋白質の高純度精製系を用い、当初の目的であるIRF4-DBA-DNA複合体形成メカニズムにおけるDNAの運動性の寄与の検討に重点をおいて研究を進めた。 昨年と同様に15N標識したIRF4-DBDを大量に調製し、NMRにて引き続き様々なDNA配列との結合実験を行った。昨年度は複合体の構造や運動性を解析するための良好な条件を見出すことができなかったが、本年度は複合体形成に用いるオリゴDNAに従来の13塩基対のものを用いず17塩基対の長いものを用いたところ、非常に良好なスペクトルが得られた。蛍光スペクトルを用いた滴定実験により、それぞれのDNA配列に対する結合の強さを決定したところ、最も強い配列についてはマイクロモルオーダーの解離定数が得られた。運動性が高いと考えられるDNA配列は運動性が低いと考えられるものより、数倍程度結合が強かった。この結果から、DNAの運動性はIRF4-DBA-DNA複合体形成において非常に重要な役割を果たしていることが分かった。また、その解離定数の塩強度依存性から、IRF4-DBDとDNAとの相互作用において、ほぼ全ての塩基配列において静電的相互作用に強く寄与していることが明らかとなったため、より詳細な解析のためには、解離定数をエンタルピー項とエントロピー項に分けて評価してゆく必要があることが示唆された。
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