真核生物はDNAが蓄えられている核と蛋白質が合成される細胞質が核膜で隔てられている。そのため、mRNAの核外輸送は遺伝子発現の調節機構にとって重要な過程である。申請者らは共焦点顕微鏡を用いて、mRNAを生細胞内で1分子観察してきた。本年度はこれらの研究を発展させた。 1.mRNAの核内運動の解析 mRNAの核内拡散運動を詳細に解析した。その結果、mRNAにはほぼ止まっている物と、運動している物が同じ割合でいた。mRNAの長さを変えて観察したところ、運動しているmRNAは長さによらず同じ拡散速度で動いており、その値は水中の1/100程度だった。一方、蛍光相関分光法(FCS)で核内の粘性を測定した所、水中の3倍程度であり、粘性の変化では説明できなかった。これらの結果から、mRNAは何らかの核内構造物と結合解離を繰り返しながら拡散運動している可能性が示唆された。 2.スプライシングの観察 mRNAは転写された後スプライシング反応によって、余分な配列(イントロン配列)が切出され、成熟mRNAとなる。最近の知見によれば、転写とスプライシング、核外輸送は密接に関連している事が示唆されている。そこで、mRNAのエキソン、イントロンを別々の色素で染め分け、プリズム分光を用いてスプライシングを観察するための技術を確立した。 3.mRNAの核外輸送の観察 mRNAの核外輸送速度を測定した所、mRNAは長さによらず約40分で核外輸送された。一方、通常用いられる有機系の蛍光色素は1分程度で退色してしまうため、1分子のmRNAの動きを追跡する事が困難であった。そこで、退色がしにくい半導体量子ドットの有用性を検討した。その結果、量子ドットは色素の10倍明るく、100倍退色しにくかったが、凝集してしまい、核外輸送効率が蛍光色素を用いた場合の1/10程度に低下した。更なる試料調整法の検討が必要な事が分かった。
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