研究概要 |
高度好塩菌の細胞膜上に存在し、光を吸収して一分子で水素イオンを膜外に輸送する蛋白質バクテリオロドプシン(BR)の光反応過程における構造変化を調べた。BRはその光反応過程でF, Gと呼ばれるヘリックスの細胞質側が外側に傾くような大きな構造変化を起こすことが明らかとなっていた。しかしその構造変化が光反応のどの段階で起きるかをしめす明らかな結果はでていない。そこでわれわれは構造変化の初期過程を明らかにするために、BRの時分割X線回折実験を行った。試料はBRの2次元結晶である紫膜を用い、実験は大型放射光施設SPring-8のBL40XUで行った。YAGレーザー(532nm)により試料の反応を励起し、遅延をおいて5マイクロ秒幅のX線パルスを照射し、ある時間点でのX線回折を測定した。そして遅延を変えて測定を行い時間的に連続なデータとした。データ精度を向上させるために、2次元結晶試料をガラス板上に置き、X線を全反射条件で入射し、回折の測定を行った。その結果、これまで試料に垂直にX線をあてて測定したデータに比べ、データの精度は格段に向上した。しかし、これまでの条件では現れてこなかった変化もみられた。その一つは光反応過程で全体の回折強度が減少することである。これはおそらくは紫膜の垂直方向の変化と関係していると思われる。つまり反応過程で構造変化が垂直方向におこり、それがX線の回折強度を落とすように作用しているためと考えている。今後はこの可能性を試すために更なる検証が必要である。
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