Foxn1遺伝子にコードされる転写因子は胸腺の形態形成と機能発現に関わる遺伝子の発現調節を行うことが予想される。そこで標的遺伝子群にFoxnl転写因子が、直接結合している状態で標的配列を含むゲノムDNA断片が単離可能なクロマチン免疫沈降を行うのに適する抗体を得るために、種々の方法を試みた。最初に昆虫細胞発現系で得たFoxn1蛋白を抗原として作成したウサギ抗Foxnl抗血清の精製を試みた。大腸菌発現系より得たGST-Foxn1蛋白を精製して作成したアフィニティーカラムを用いてウサギ抗Foxn1抗血清の精製を試みたがFoxn1に対する活性が弱く、また特異性が十分ではなかった。次いで、このGST-Foxn1蛋白をSDS-PAGEで展開し、全長のGST-Foxn1蛋白のバンドを切り出し、抗原としてウサギに免疫し、新たに抗Foxn1抗血清を得た。この血清の特異性について胎生13日マウス各組織抽出液を用いたWestern blot法により確認したところ、胸腺原基特異的に約90kDaの蛋白に強く反応した。さらに胎生13日のマウス全胎仔凍結切片を用いた免疫組織化学において、胸腺原基のストローマ細胞の核に特異的に反応した。これらの結果よりこの抗血清は、Foxn1に対する高い活性および特異性を持っことが示され、クロマチン免疫沈降法に適する抗Foxn1抗体を作成することができた。 他方、Foxn1転写因子の下流に位置し発現が制御される候補遺伝子を探索するために、正常およびヌードマウスの胸腺原基よりRNAを抽出し、胸腺機能に直接関わるような分子としてこれまでに報告されているものや関与が示唆されるものについて、その遺伝子発現をRT-PCR法により解析し比較検討した。器官構築に関わると考えられている接着分子E、N、R、Pカドヘリンの遺伝子発現は両者で変わらないが、T前駆細胞の増殖因子として知られるIL-7、SCFの遺伝子発現はヌードマウス胸腺原基で発現が低下していた。
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