研究概要 |
マウスES細胞において未分化状態維持に必須の転写因子であるOct-3/4の発現量を人為的に下げると栄養外胚葉細胞に、上げると胚体外内胚葉細胞に分化する。また、Oct-3/4による下流遺伝子群の転写制御にはOct-3/4と協同して働くいくつかの共因子(コファクター)が必要であり、その種類ごとに制御を担う下流遺伝子群が異なると考えられている。本研究はOct-3/4のコファクターを単離し、その機能を解析することを目的とする。当初、FRET法を用いたタンパク質間相互作用検出によるスクリーニングシステムの構築を予定していたが、GFP変異体融合タンパク質がリンカー構造などの制的を非常に鋭敏に受けるせいか現在までに良好な結果は得られていない。しかし予備的に遂行していた生化学的方法でいくつかのコファクター候補を見出している。この方法ではTAPタグを改良してOct-3/4と融合させ、TAP^*-Oct-3/4だけで未分化状態を維持するES細胞を樹立し、タグを利用して相互作用するとみられるタンパク質を精製することに成功した。現在SDS-PAGEのゲルから6種類のバンドを切り出し、マス解析を行っている。 一方で、Oct-3/4の発現量上昇による胚体外内胚葉への分化誘導にはOct-3/4のDNA結合能は必要ないこと(Mol. Cel. Biol.,2002)、このときGATA-6の発現が誘導されることがその分化に必要十分であることを他研究者らと共同で証明した(Genes and Dev.,2002)。以上の結果から、ES細胞内ではGATA-6の発現を負に制御する分子エックスが存在し、エックスの発現はOct-3/4とそのコファクターのタンパク質間相互作用によって協調的に正に制御されることが示唆された。コファクターが未分化状態維持に必須の役割を果たすことを裏付ける知見である。
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