マウスES細胞における未分化状態維持に必須の因子として転写因子Oct-3/4が知られており、本研究は新規Oct-3/4コファクターの単離を狙ったものである。 現在までに、改変型免疫沈降法の開発に成功しており、これによってOct-3/4と相互作用するとみられるタンパク質を数種類同定している。その中には、E3ユビキチンライゲースであるNEDD4も含まれていた。NEDD4は様々な膜タンパク質の量を調節しており、神経初期発生に重要な役割を果たしていると考えられているが、ノックアウトマウスの報告は無く、その機能には未知の部分が多い。興味深いことに、NEDD4の発現はES細胞の分化に伴って低下することを最近見出している。一方、ゲル上のバンドとしては検出できるものの、量的問題のためにマス解析にて同定できない共沈降タンパク質も多数確認している。今後はこの改変免疫沈降法をさらに大規模に行い、Oct-3/4と相互作用するタンパク質を網羅的に同定するヒとを予定している。またNEDD4を含め得られた候補タンパク質の遺伝子を、ES細胞において強制発現または誘導的ノックアウト実験を行い、未分化状態維持機構への関与を検証していきたい。多種類の遺伝子の機能解析を迅速に行うためのシステムとして、交換可能なテトラサイクリン制御性発現ユニットをROSA26遺伝子座へ導入し、簡便且つ確実に望みのcDNAの発現をテトラサイクリンで制御できるシステムの構築に成功している。(すでに多方面の研究者に配布済みである)。 他方、未分化マーカー遺伝子Rex-1のノックアウト実験を行って、この遺伝子産物はマウス発生過程において必要ではないことを証明した(升井ら、第36回発生生物学会年会2003年)。
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