まず、走査型プローブ顕微鏡(SPM)を用いた力学測定法の一つであるフォースモジュレーション法による弾性率と粘性係数の絶対値測定を可能にした。これまでフォースモジュレーション法は、短時間で高解像度の粘弾性測定が可能である反面、相対値しか得られないという欠点があった。そこで、弾性接触理論から導かれるHertzモデルを複素弾性率に拡張し、試料の粘弾性と溶液の粘性の両方を考慮に入れた1次元振動方程式を数値解析することで、弾性率と粘性係数の絶対値を導く手法を確立した。これにより、フォースモジュレーション法による弾性率と粘性係数の絶対値測定が可能となった。 次に、「基盤のかたさ」という物理的な因子が組織の形成にどのような影響を与えるのかを調べる目的で、やわらかいゲル基盤とかたいガラス基盤の上に上皮細胞を培養し、増殖・運動する様子を位相差顕微鏡で長時間観察し、その運動の様子を定量的に解析した。その結果、ガラス基盤上の細胞は大きなコロニーを作らずにランダムな運動を行うのに対して、コラーゲンゲル上の細胞は数百から数千個の集団で、一軸方向への協調的な集団運動を示すことを発見した。 また、コロニーの形態を詳細に観察した結果、ゲル基盤上でコロニーを形成している細胞集団はガラス上の細胞よりも底面積が10倍以上小さいことがわかった。細胞の体積を一定と仮定するとゲル上の細胞の方が基盤に対し垂直方向に高くなっていることがわかる。つまり、ゲル上の細胞は集団化すると軟らかいゲル基盤を自らの収縮力で変形させ、垂直方向に高くなることで細胞間接着を強固にする。その結果、物理的・化学的な細胞間のコミュニケーションが緊密になり、協調的な集団運動が引き起こされたのではないかと考えることができる。
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