M期の分裂装置・染色体の複雑な動きは複数種のモーター分子が協調的に働くことで実現されており、各モーター分子の制御機構の解明がM期研究での大きな課題のひとつとなっている。Kidは、DNA結合能を有するキネシン様モータータンパク質である。これまでの研究からKidはM期には紡錘体及び染色体に局在し、+端モーターとして染色体の中期板整列に必須であることが示されている。更に、制御機構の一つとしてM期特異的なリン酸化があり、M期における局在やDNA結合能が制御されていること、中でもCdc2によるThr463のリン酸化がKidの染色体への局在に必要であることを明らかにしてきた。これらの結果をふまえ、本年度はKidのCdc2によるリン酸化が担う制御機構について更に解析を進め、以下のことを明らかにした。 1.Cdc2によるリン酸化はKidのi)Kid結合配列を含むDNA断片へのin vitroでの結合能、及びii)in vivoでのM期染色体結合能には必要ではない。 2.Kidはそのstalk領域中に、モーター領域とは独立な微小管結合領域を持つ。 3.Kidのstalk領域内にある微小管結合領域の結合能はATP非依存性であるが、Cdc2によるThr463残基のリン酸化により抑制される。 これらの結果から、KidはThr463非リン酸化状態では第2の結合領域により微小管に対して高い親和性を持っていること、及びCdc2によるリン酸化はKidの微小管結合を可逆的にし、微小管と染色体の双方に結合するために必要であることが示された。今後、この第2の結合部位の生理的意義についてさらに解析をすすめる。また、Cre-loxPシステムを利用したコンディショナルKid遺伝子欠損細胞株を樹立する研究計画も遂行中である。
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