細胞周期のM期への進行は、G2期にWee1/Myt1により不活化されたcyclin B・Cdc2複合体キナーゼが、Cdc25により活性化されることにより誘起されるが、その活性化の最初期段階については、多くの点が不明である。本研究では、ヒトデ卵母細胞を材料に、代表者がこれまでに見いだした卵成熟開始時に起こるCdc25の初期リン酸化制御が、Myt1の初期リン酸化制御と同様に、Akt(PKB)により行われるかを明らかにすることを目的として、in vivoおよびin vitro両面から検討した。 前年度までに、Cdc25の初期リン酸化部位として、Cdc25タンパク質の188番目のSer残基(S188)を同定し、さらに、このリン酸化を特異的に認識する抗体を用いて、S188のリン酸化は、細胞内のAktの活性化に依存することを示した。本年度は、in vitroにおける解析を主に行った。Aktは確かにCdc25のS188をリン酸化し、フォスファターゼ活性の上昇をもたらしたが、リン酸化部位は複数カ所存在した。そこで、S188のみのリン酸化の影響を調べるために、他のリン酸化部位を含めた各種変異体を作製することで、Cdc25のS188のリン酸化が、Cdc25のフォスファターゼ活性を昂進することを明らかにした。これらの結果により、Aktは、Myt1の初期リン酸化制御だけでなく、Cdc25の初期リン酸化制御を並行して行うことにより、効果的にcyclin B・Cdc2の初期活性化を引き起こすことが示された。本年度はさらに、S188のリン酸化抗体を用いて卵成熟過程および初期卵割過程についても解析範囲を広げ、Cdc25のS188のリン酸化制御が、卵成熟過程の減数第二分裂開始にも関与する可能性を示した。ここから、本研究により、M期開始の分子機構の解明に一歩近づくと共に、今後、新たな展開が期待されると言える。
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