我々はCa^<2+>情報伝達経路が関与する細胞周期制御機構を解明するため出芽酵母を高等生物の「モデル生物」として用い細胞生物学的解析によりその全貌を解明する研究を行っている。これまでにCa^<2+>情報伝達経路が異常と予想された酵母変異株を多数取得し、順次解析を行っており、変異をsczと銘々した。 scz6変異株の解析結果から以上のような知見を得た。(1)scz6変異はCキナーゼとして知られるPkc1の変異由来であった。(2)scz6変異株は、高濃度のCa^<2+>培地で耐性を示し、高温(37℃)および低温(14℃)感受性を示した。(3)scz6変異株では、酵母Pkc1経路の下流で機能しているMpk1(細胞壁の合成に関与)経路に欠陥があると予想されたが、Ca^<2+>によるMpk1の活性化が観察されたことからMpk1経路は正常に機能することが分かった。(4)scz6変異株の低温感受性は細胞質分裂チックポイントで機能するBim1の過剰発現により抑圧された。以上の結果から今回取得した変異Pkc1は細胞質分裂あるいは細胞周期進行に特異的に欠損した変異株であると予想された。さらにPkc1はG1サイクリンの発現制御に重要であることを見出した。 Pkc1の機能としては細胞壁合成の構築に必須であることはよく知られていたが、これまで詳細が不明であったPkc1の細胞周期・増殖における役割を明らかにした。さらに重要なことに少なくともPkc1は酵母細胞内ではCa^<2+>による活性化を受けることを明らかにした。この事実は高等生物にも大きなインパクトを与えると予想する。
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