本研究では、哺乳類での細胞周期、特にG2/M期の未知の制御機構を解明するため新規のNIMAファミリーキナーゼを検索し、G2/M期で発現上昇する新規蛋白質リン酸化酵素Nek9(現在ではNek11と改名されている)の遺伝子をHeLa細胞のcDNAライブラリーより単離、同定することに成功した。Nek11はN末側にキナーゼドメインを持ち、C末側には複数のcoiled-coilドメインとPEST様配列を持っていた。新規蛋白質リン酸化酵素Nek11の活性至適条件を検討したところ、カチオンとしてマグネシウムよりもマンガンを好むこと、また基質特異性を探索したところ、ヒストンH1、H2AやH3を好むことが明らかなった。また、本研究で作製した抗Nek11抗体を用いて細胞内局在を蛍光免疫染色法で検討したところ、主に核が陽性に染色され、核内蛋白質であることが示された。興味深いことに、細胞周期の分裂期においては、polar microtubule近辺にNek11が移動する事が示され、Nek11は細胞周期を通じて間期では核に、分裂期ではチューブリンファイバー上に移動する性質が明らかになった。さらに、間期においては、DNA複製阻害剤、aphidicolinやhydroxyurea、あるいは、DNA障害性の抗癌剤処理でNek11の活性が上昇することが見出された。また、過剰発現の効果を検討するため、正常型Nek11をU20S細胞に一過性に過剰発現した場合ではaphidicolinによる細胞周期停止反応が促進され、不活化変異体のNek11を過剰発現した場合では、それが減弱されることが判明した。さらにU20S細胞に活性不活化変異体のNek11を安定発現する株を作製し、aphidicolinに対する細胞生存率の感受性を検討すると、若干の高感受性を示した。これらの知見から、DNA複製阻害剤による細胞周期停止反応にNek11がなんらかの役割を持つことが示唆された。
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