研究概要 |
脊椎動物のnoda1遺伝子は、体節期の胚において左右非対称に発現する。両生類胚の場合、現在6つのnodal遺伝子が知られているが、そのうちXnr-1のみが左右非対称に発現し、後期神経胚期に左側板中胚葉のみに発現する。Xnr-1がどのようなメカニズムによって左側のみで発現するのかについては、原腸形成以降、Xnr-1より早く左右非対称に発現する遺伝子が知られておらず、全く分かつていないと言える。Xnr-1の左右非対称な発現を制御するメカニズムを探るため、いくつかの実験を行った。神経胚の左右の組織を切り分け、サブトラクション法を用いて、Xnr-1以前に左右非対称に発現する遺伝子の単離同定を試みたが、検出出来なかった。Zebrafish, chick, XenopusなどのNoda1他で保存されているアミノ酸領域を元にForward6種類、Reverse6種類のprimerを設計し、いくつかの組み合わせでdegenerate PCRを行ったところ、Xnr-1,Xnr-3,fugasin, Xnr-6,ADMP, BMP-4,Vg1などが単離されたが、新規遺伝子は単離されなかった。しかしながら、このうち2組のprimer pairをアカハライモリ原腸胚由来mRNAに適用し、degenerate PCRを行ったところ、1つの新規noda1遺伝子の部分配列を決定することが出来た。これをCynr-1と名づけて、そのORF全長の単離を急いでいる。両生類特異的TGFとされるTGF-beta5のタンパク質を神経胚の右側板に皮下注射すると、100%近い胚に内臓逆位が生じXnr-1の発現が右側に大きく偏ることから、Xnr-1の左側板特異的な発現に内在性のTGF-beta5が関与することが考えられた。そこで、TGF-beta5タンパク質の機能を抑制するべく、そのアンチセンスMorpholino oligonucleotide(MO)を背側左割球に注射したところ、網膜組織の分化が抑制され"フリーレンズ"が高頻度で形成されると共に、内臓逆位が生じた。TGF-beta5 MOの背側左割球注射でXnr-1の左側板特異的な発現が50%の胚で消失していた。同MOの背側右割球注射では、Xnr-1の発現に変化はなく、内臓逆位も殆ど生じなかった。従って、後期神経胚期に沿軸中胚葉に発現するTGF-beta5は、Xnr-1の左側特異的な発現を維持する因子であると考えられた。
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