両生類アフリカツメガエル胚では、脊椎動物最多の6つのnodal相同遺伝子が同定されているが、Xnr-1のみが左側板中胚葉に左右非対称に発現する。Xnr-1の左右非対称な発現を誘導する分子機構については未解明である。Essnerらは、ツメガエル胚においては、神経胚後期(Xnr-1が背側尾部で両側性の発現を開始する時期)に、left-right dyneinが尾部の後期オルガナイザー領域に発現し、神経胚原腸に接する同領域に繊毛が生えていることを報告した。この領域で生じた繊毛運動が、Xnr-1の左側板特異的な発現に深く関与していることが予想される。今年度は、Xnr-1の左発現の直前に出現する、背側後方の沿軸中胚葉におけるXnr-1の両側性の発現(以下、両側性発現)に着目して研究を行った。 Xnr-1に対するアンチセンス核酸を左割球に注射したところ、Xnr-1の左発現は61%の胚で消失したが、Xnr-1の両側性発現には、全く影響を与えなかった。Xnr-1リガンドが成熟型となるために、前駆体型Xnrを切断する酵素としてsubtilisin-like proprotein convertaseが知られている。SPCの特異的阻害剤を神経胚に注射したところ、Xnr-1の両側性発現は57%の胚で消失した。左側板においてXnr-1によって誘導され、Xnr-1よりも後期に左側板特異的に発現するleftyはXnr-1シグナルのantagonistとして働くことが予想される。Leftyタンパク質を神経胚に注射したところ、Xnr-1の両側性発現は35%の胚で消失した。繊毛運動を阻害するバナジン酸(NaVO_3)を原腸に注射したところ、27%の胚で、内臓逆位が誘起された。これらの結果から、背側後方沿軸中胚葉で合成されるXnr-1リガンドが左右非対称な液流に乗って左側板後方に到達し、Xnr-1の左側板特異的な発現が、その後方から全域に伝播することの初動となっている可能性が示唆された。
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