エストロゲンは性行動や性腺ホルモンの分泌制御などの性差のみられる脳機能に対してのみでなく、脳を守り、維持するといった、より一般的な機能に対しても非常に大切な因子であることが明らかになってきている。本研究ではエストロゲンの作用に伴い、脳神経細胞にどのような構造的変化がもたらされ、その結果、どのような機能的変化が生じるのかを明らかにするために、マウスERα遺伝子プロモーター(6.0Kb)の下流にEGFP遺伝子cDNAを繋ぐ形の遺伝子のトランスジェニック(TG)マウスの作成を行った。得られた7つのTG系統のうち3系統において視床下部、中隔、分界条床核、扁桃体や線条体など、これまでにERαを発現すると報告されている領域でGFP陽性の神経細胞の分布が確認された。これらのGFP陽性の細胞が実際にERαを発現しているかを蛍光免疫染色で確認したところ、その多くは実際にERα免疫陽性であった。性ホルモンを枯渇することにより、ERα陽性神経細胞の形態が変化するかどうかを、卵巣摘除を行ったTGマウスの脳組織を解析したところ、卵巣摘除を行うとGFP陽性の細胞が増加する脳領域と変化の見られない領域があることがわかった。また、増加の見られた領域では神経細胞体が小さくなり、変化のみられなかった領域では逆に大きくなることを明らかにした。さらに、このTGマウスの胎児脳を分散培養または新生児脳をスライス培養して、ホルモン環境の変化に伴うERα陽性神経細胞の形態・機能の変化をGFPの蛍光を指標に試験管で生きた細胞・組織を用いて解析する系を確立した。これらの結果を2002年度国際神経内分泌学会、CREST「脳ニューロステロイド作用を攪乱する環境ホルモン」研究会、2003年度神経科学会、解剖学会および神経内分泌学会で発表し注目を集めた。
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