本研究で用いた硬骨魚類を含め、脊椎動物には終神経、視索前野-視床下部、中脳の合計3つのGnRH細胞群が存在することがわかっており、視索前野のGnRH細胞群が下垂体を支配することは既に我々によって実験的手法による証明がなされている。視索前野以外のGnRH細胞群である終神経および中脳の細胞群の存在する脳部位にトレーサーを注入して下垂体を支配をするかどうか調べた。今年度は、現代的な硬骨魚類である棘鰭類に属するドワーフグーラミーに加えて、古い時代に他の硬骨魚類から分化した骨標類に属するキンギョも材料として上記の研究を行った。 2つのGnRH細胞群について両方の種で数例ずつの注入成功例が得られた。これらのうち、ドワーフグーラミーの終神経のGnRH細胞群を含む領域にトレーサーを投与した1例で、下垂体に線維が発見された。この結果は、下垂体が複数のGnRH細胞群による多重支配をうける可能性を示唆している点で重要である。また同時に、本課題の結果は下垂体のGnRHによる制御様式には種差が存在する可能性を示しており、進化学的な視点からも重要性を持つと考える。今後もさらに例数を増やすことにこの問題をより確実に証明する必要がある。GnRH受容体の抗体はいまのところ特異性の高いものは得られていないが、多重支配の存在を示唆する結果が得られたことを考慮すると、組織化学での使用にたえるものを作成して受容体の分布を明らかにする意義は極めて大きいことが明確となった。
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