脳神経系におけるDNAダメージおよびその修復ネットワークの異常によって生じる精神・神経疾患の分子病態解明を目指し研究を行った。まず、ヌクレオチド除去修復遺伝子変異によって精神発達障害、運動失調等を引き起こすA群色素性乾皮症ならびにB群コケイン症候群モデルマウスの行動ならびに脳内酸化ストレスの蓄積の様子について解析を行った。その結果、マウスで見られるヒト疾患と極めて類似の神経症状は、細胞分裂異常と関連した小脳発達障害ならびに8-オキソグアニンなどの酸化的DNAダメージの蓄積による細胞死の亢進が深く関与していることを明らかにした。次に、酸化的DNAダメージの原因物質として知られる一酸化窒素(NO)の細胞死誘導機構について解析した結果、リン酸化Bcl-2によるBaxのミトコンドリアへのトランスロケーションの調節がNOによるアポトーシスの誘導に必須であることがわかった。最後に、酸化的DNAダメージを引き起こす生体内アミノ酸として知られるホモシステインの代謝酵素、シスタチオニンβシンターゼ(CBS)の脳内局在を調べたところ、CBSは発達・成熟脳においてラジアルグリア-アストロサイト細胞系譜で特異的に発現していることを明らかとした。以上の成果は、脳内におけるDNAダメージ産生細胞ならびに原因物質の同定と細胞傷害誘導メカニズムを明らかにしたと同時に、今後、神経疾患治療の標的細胞と方法を考える上で極めて重要な手がかりとなることが期待される。今後、アルツハイマー病やパーキンソン病といった主要な神経疾患へのDNAダメージの関与についてさらに解析を行っていく必要がある。
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