申請者を含め、多くの研究者はこれまで酵母などの単細胞生物や培養細胞を材料にこれらの小胞体ストレス応答を研究してきた。それによって細胞レベルでの小胞体ストレス応答機構の解明は大きく前進した。一方、動物個体レベルでの小胞体ストレスの研究はまだ始まったばかりで、小胞体ストレスそのものが「いつ、どんな組織・器官またはどんな病態で生じるのか?」さえもほとんどわかっていない。そこで申請者はこの問いに答えるべく、小胞体ストレスを個体レベルでモニターできるトランスジェニックマウスの作製を試みた。XBP1 mRNAのスプライシング反応は小胞体ストレス特異的に起こる。また、そのイントロンは26塩基であり、かつコード領域内にあるため、小胞体ストレスによるスプライシングでXBP1 mRNAはフレームシフトを起こす。これらの特徴をもつXBP1遺伝子のスプライシング領域とレポーター(改良型緑色蛍光タンパク質GFP、venusの)遺伝子との融合遺伝子は小胞体ストレスのモニターシステムに有用であると考えた。哺乳動物細胞用の遺伝子発現ベクターを用い、この融合遺伝子をヒトやマウスの細胞株で発現させた場合、小胞体ストレス特異的にレポーター活性が検出できた。この新システムにおけるスプライシング反応は内在性XBP1と同様に厳しく制御されており、通常の培養条件下の培養細胞ではレポーター活性はほとんど検出されなかった。一方、小胞体ストレス条件下では通常条件下に比べ、約100倍ものレポーター活性が検出された。次に申請者はこの融合遺伝子の発現コンストラクトをトランスジーンとしてトランスジェニックマウスの作製を行った。2ラインのトランスジェニックマウスで、小胞体ストレス誘導剤の注入により、全身で高レポーター活性が検出された。以上述べたように、今年度、申請者は小胞体ストレスモニター用トランスジェニックマウスの作製に成功した。
|