中枢神経細胞の初期発生において、神経幹細胞から神経細胞やグリア細胞が分化し脳形態形成の最終ステージ迄の時間軸のなかで、BMPがどのように関わって機能を発現しているかを解析することを主眼とた。大脳皮質特異的に発現する転写調節因子Emx-1遺伝子にcreリコンビナーゼを発現させ、大脳皮質特異的にBMPRIA受容体遺伝子欠損マウスを作製した。電子顕微鏡をもちいた微細構造を解析から、ミュータントマウスの生後の脳においては、Emx1-Cre由来のアストログリアが存在する大脳皮質の1から2/3層及び大脳縦裂近傍において、アストログリアのエンドフィートと呼ばれる血管周囲を取り囲む構造が欠落していることが観察された。さらに、IgGなどの血液成分が脳実質中に漏れ出ていることから、脳血液関門が形成されていない事が分かった。10ヶ月齢のミュータントマウスは同様に脳血液関門の欠落を示した。初代培養系のアストログリアにアデノウイルスを用い恒常的に活性型のBMPRIA遺伝子を導入したところ、やはり細胞の形態変化や増殖活性の増加が見られることが示された。以上の結果からBMPRIA受容体シグナリングはアストログリアと血管内皮細胞の接着に必須の役割を持っていることが示された。 一方、偶然このミュータントマウスの前肢と下肢において、Creリコンビナーゼが発現した為に、Cre/loxP組換えによるBMPRIA遺伝子の欠損が生じた。その結果、皮膚では毛の形成不全が見られた。組織学的解析から、BMPRIAを介したBMPシグナリングが毛を構成するケラチンの前駆細胞からの分化に必須の役割があることが分かった。
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