研究課題
今年度は以下の研究を行った。1:遺伝子破壊実験 昨年度より引き続き、P因子挿入系統を約20系統用いて塩味嗜好性を測定した。その結果、2系統の塩に対する嗜好性が他の系統に比べて有為に低下した。2:遺伝子の同定 2系統のP因子挿入部位は互いに比較的近傍であり、ゲノム配列と比較した結果、1つの遺伝子のイントロン部位にそれぞれ挿入されていることが明らかになった。さらに、RT-PCR解析により、これらの系統ではこの遺伝子の発現が極端に低下していることが明らかとなり、この遺伝子が塩味嗜好性に関与している可能性が高いことが示唆された。さらに、このP因子挿入系統を野生型の塩味嗜好性が低い系統と交配したところ、そのF1lも嗜好性は低く、P因子挿入で破壊された遺伝子と野生型で塩味嗜好性に関与している遺伝子は同一のものであることが示唆された。ゲノムプロジェクトによって発見されたその遺伝子の予想されるアミノ酸配列から、この遺伝子産物はロイシン・リッチ・リピートを含む、1回膜貫導型の受容体様タンパクであること知られている。3:塩味嗜好性を引き起こす入力経路 ショウジョウバエの味受容細胞は、口吻だけではなく脚や羽にもあることが知られている。特に、前肢の先端は受容細胞が多く、その受容細胞をショ糖などで刺激するだけで、摂食行動を引き起こすことが知られている。この前肢の味受容細胞がある部位を切除したハエと切除していないハエの塩味嗜好性を測定した結果、切除群の塩味嗜好性は有為に低下した。しかし、甘味嗜好性や高濃度塩に対する忌避性は切除群と対照群では有為な違いが見られなかった。このことから、塩味嗜好性には前肢の味受容細胞からの塩味入力が重要であることが示唆された。
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