本研究は、シナプス伝達におけるカルシウム/カルモデュリン依存性プロテインキナーゼIIの役割を、特にシナプス前終末に重点を置いて解析することを目的としている。 目的の蛋白が調製できれば、電気生理実験においてパッチピペットから細胞内に蛋白を流入させることが出来る。CaMキナーゼを大量に調製するために、バキュロウィルスを用いたSf9細胞による蛋白合成系を立ち上げた。ラットCaMキナーゼIIαの発現コンストラクトを作製し、Sf9細胞に感染させたが、CaMキナーゼαの蛋白合成量は比較的少量であり、Hisタグによる回収量は100μg程度である。また、精製度も60%程度と低いため、さらなる精製ステップが必要である。CaMキナーゼIIβに関してはサブクローニングまで進み、配列の確認まで終了している。 11Rコンストラクトは、細胞外からインキュベートするだけで目的の蛋白を細胞内に導入することが出来ると報告されている。しかし、急性脳スライスをサンプルとして検討したところ、11Rコンストラクトによる細胞内への蛋白導入は現状非常に効率が悪く実用のレベルに達していないため、さらなる検討が必要である。 海馬歯状回の軸索である苔状線維では、生後3週から9週にかけてシナプス伝達の長期可塑性や短期可塑性が大きく変化する。この間、CaMキナーゼα/β比が上昇する。つまり生後3週ではβ型が優位であるが9週ではα型が優位となることを明らかにした。CaMキナーゼα/βスイッチングがシナプス前終末の可塑性に影響を与えているものと考えられる。
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