研究概要 |
この研究は、ヒト前頭葉の抑制機能、とりわけ行動のパターンを切り替えるときに活性化することが知られている、両側下前頭溝後部の左右機能差の解明を目的とする。この反応切り替え機能は、個体の思考や行動の柔軟性を保つために重要な高次機能と考えられている。特に、Wisc onsin Card Sorting Test (WCST)を遂行中の被験者が、カード分類行動のルールを切り替えるときに発現される機能で、このルール切り替え時の一過性の脳活動を機能的磁気共鳴画像法(fMRI)の時間分解能を利用して測定する(事象関連fMRI)と、両側の下前頭溝後部で一過性の活性が見られる。しかし、この領域の左右によってどのような機能的差異があるかは不明である。これを解明するために、反応切り替え時の活性をより基本的な成分に分解し、それらの活性の左右差を調べた。反応切り替え時の活性は、いくつかの成分から成り立っていると考えられる。例えばWCSTの反応切り替え時では、被験者がまずカード分類ルールの変化を認識し、そしてその新しいルールを行動に適用して反応を切り替える、などの情報処理が行われると考えられる。そこで、WCSTの改変版を考案し、それぞれの成分に対応する脳活動を抽出すると、ルールの切り替えを認識するときには右前頭葉が活性化し、その新しいルールに適用して反応を切り替えるときには左前頭葉が活性化するという結果がえられた(Konishi et al.,PNAS,2002)。このことは、左右の前頭葉が別々の役割を分担することにより、共通の目的達成のために協調していることが示唆される。
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