研究概要 |
この研究は、ヒト前頭葉の抑制機能、とりわけ反応切り替え機能を構成する成分プロセスの分離とその神経基盤の同定を目的とする。この反応切り替え機能は、個体の思考や行動の柔軟性を保つために重要な高次機能と考えられている。具体的には、Wisconsin Card Sorting Test(WCST)を遂行中の被験者が、カード分類行動のルールを切り替えるときに発現される機能である。このルール切り替え時の一過性の脳活動を機能的磁気共鳴画像法(fMRI)の時間分解能を利用して測定する(事象関連fMRI)と、下前頭溝後部などのいくつかの前頭葉領域で一過性の活性が見られる。これらの活性が、過去に確立した行動パターンからうける干渉効果を抑制するという機能を反映しているのか、あるいは将来の行動パターンへ適応するために準備するという機能を反映しているのかは不明である。これを解明するために、この両者を時間的に分離することを可能にする"二重合致"刺激を開発し、抑制的機能発現時の活性を調べた。すると、被験者が無意識的に過去の行動パターンを抑制するときは左前頭葉上部領域、一方被験者が意識的に過去の行動パターンを抑制するときは左前頭葉下部領域が活性化することが明らかとなった(Konishi et al.,Journal of Neuroscience,2003)。このことは、過去に確立した行動パターンを抑制する機能を、無意識的過程か意識的過程かにより、前頭葉内の異なる脳領域が担っていることが示唆される。
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