本年度は、神経ステロイドの急速な合成制御機構を解明するために、まずラット小脳より調製した顆粒神経細胞の初代培養系において、全ての神経ステロイドの前駆体であるプレグネノロンの産生を検討した。その結果、確かに内在性コレステロールよりプレグネノロンが合成されることを確認した。更に、細胞外カルシウムの存在下においてNMDAで刺激することにより、顆粒神経細胞におけるプレグネノロンの産生が有意に高まることを観察した。次に、ステロイド合成の基質であるコレステロールのミトコンドリア内での輸送を担い、神経ステロイドの合成速度を調節すると考えられるステロイド合成急性調節蛋白質(StAR)の動態を検討した。ミトコンドリアにおける37-kDa及び30-kDaのStARの量の変化を、特異的抗体を用いたウエスタンブロット解析によって追跡したところ、NMDAによる刺激に対して、ミトコンドリア外膜における37-kDa StARが減少し、ミトコンドリア内膜における30-kDa StARが増加することが観察された。この変化は、プレグネノロンの産生とよい一致を示したことから、StARがコレステロールを急速にミトコンドリア内で輸送してミトコンドリア内膜のチトクロムP450sccにコレステロールを供給する過程が、神経ステロイドの急速な合成の速度を制御していることを示すものと思われる。
|