1.においの学習記憶におけるmGluR2の役割 本研究は、マウス副嗅球の相反性シナプスの性質をさらに解明するため、副嗅球スライス標本を作製し、nystatin穿孔パッチによるホールセル法(一部常套的ホールセル法)を用いて各種薬物の相反性シナプス電流に対する効果を膜電位固定下で調べた。当年度は、前年度に引き続き代謝型グルタミン酸受容体2型(mGluR2)に着目し、その相反性シナプス伝達に果たしている役割について、mGluR2の遺伝子欠損マウスを用いて調べた。 僧帽細胞に脱分極性の電位刺激を与えると、この僧帽細胞と相反性シナプスを形成している顆粒細胞が興奮して抑制性の相反性シナプス電流を発生する。 Mg^<2+>非存在下で測定した相反性シナプス電流は577±215pA・sであったのに対し、DCG-IV(mGluR2作動薬)を細胞外投与した場合の電流応答は748±170pA・s(Mg^<2+>非存在下で記録された電荷の129±29%;n=6)であり、相反性シナプス電流は増加した。 次に、LY341495(mGluR2阻害薬)の相反性シナプス電流に対する効果を同様にして調べた。Mg^<2+>非存在下で測定した相反性シナプス電流は436±80pA・sであったのに対し、LY341495を細胞外投与した場合の電流応答は442±91pA・s(Mg^<2+>非存在下で記録された電荷の101±21%;n=6)であった。調べた全ての細胞(n=6)において、相反性シナプス電流には顕著な変化はみられなかった。 研究代表者は前年度の研究により、通常のマウスにおいてはDCG-IVの細胞外投与により相反性シナプス電流は顕著に抑制され、LY341495の細胞外投与では相反性シナプス電流が増加することを見出している。本年度の研究結果により、mGluR2が個々の細胞レベルにおいて僧帽細胞-顆粒細胞間相反性シナプス伝達に極めて重要な役割を果たしているとする従来の我々の説がさらに裏付けられた。
|